過払い 悪意の受益者に関する判決

2010 年 2 月 17 日 水曜日 投稿者:mituoka

 先日、私が原告訴訟代理人を務める過払い請求訴訟(被告クラヴィス)の判決が言渡されました(於 静岡簡易裁判所)。

 「悪意の受益者」に関する部分について抜粋して紹介します。

〈争 点〉
 本件取引は、原告と被告との間で、制限利率を超える利息による借り入れと弁済が繰り返されている継続的取引であり、被告は、本件取引について、貸金業法43条所定のみなし弁済の主張をしないので、その弁済が貸金業法43条所定のみなし弁済の要件を充たさない限り、利息制限法による引き直し計算に基づき、制限利率を超過してた利息(以下、「制限超過部分」という)は元本に充当され、同計算上元本が完済となった場合には、借主である原告は、被告に対して、その後に債務の存在を知らずに支払った金員について、過払金としてその返還を請求することができる。
 しかし、被告は、次のとおり主張して、被告が民法704条所定の「悪意の受益者」に該当することを否認する。

(被告の主張)
(1)被告は、監督官庁の指導下、利用者に対し、貸金業法17条、同法18条所定の各書面を交付し、被告においてみなし弁済が成立すると認識したことに相当の理由があるから、民法704条所定の「悪意の受益者」に該当しない。
(2)最高裁判所平成16年(受)第1518号同18年1月13日判決・民集60巻1号1頁(以下、「平成18年判決」という。)以前の取引について、制限超過部分を受領したことのみを理由として当該貸金業者を悪意の受益者であると推定することはできない。

〈当裁判所の判断〉
 民法704条の「悪意の受益者」とは、「法律上の原因のないことを知りながら利得した者」をいう(最高裁判所昭和37年6月19日判決・裁集民61号251頁)。
 金銭を目的とする消費貸借において制限利率を超過する利息の契約は、その超過部分について無効であって、この理は貸金業者についても同様であるところ、貸金業者については、貸金業法43条1項が適用される場合に限り、制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨からすれば、貸金業者は、同項の適用がない場合には、制限超過部分は、貸付金の残元本があればこれに充当され、残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると、貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には、当該貸金業者は、同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者、すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである(最高裁判所平成17年(受)第1970号平成19年7月13日判決・民集61巻5号1980頁参照)。
 ところで、最高裁判所平成16年(受)第1518号同18年1月13日判決・民集60巻1号1頁(以下、「平成18年判決」という。)は、債務者が利息制限法1条1項所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約(以下、「期限の利益喪失特約」という。)の下で制限超過部分を支払った場合、その支払は原則として貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできない旨判示している。平成18年判決の言渡し日以前は、上記判示の見解を採用した最高裁判所の判例はなく、下級審に裁判例や学説においては、このような見解を採用するものは少数であり、大多数が、期限の利益喪失特約の支払というだけではその支払の任意性を否定することはできないとの見解に立って、同項の規定の適用要件の解釈を行っていたことは、公知の事実であるから、平成18年判決の言渡し日以前の期限の利益喪失特約下の支払については、これを受領したことのみを理由として当該貸金業者を悪意の受益者であると推定することはできない(最高裁判所平成20年(受)第1728号同21年7月10日判決・裁判所ホームページ参照)。
 しかし、制限超過部分の支払について、それ以外の貸金業法43条1項の適用要件の充足の有無、充足しない適用要件がある場合には、その適用要件との関係で貸金業者が悪意の受益者であると推定されるか否か等について検討しなければ、貸金業者が悪意の受益者であるか否かの判断ができないものというべきである(上記平成21年7月10日最高裁判所判決)。そうすると、上記判断の前提として、貸金業者は、同法17条及び同法18条所定の各書面の交付の事実等同法43条1項の適用要件の充足状況についての立証を要するというべきである。
 被告は、制限利率を超える約定利率で原告に対し貸付を行い、制限超過部分を含む弁済金を受領しているところ、被告は、その受領について貸金業法43条1項の適用があること、あるいは、同法17条及び18条所定の各書面の交付の事実等、同法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情の存在することを、いずれも主張立証しないので、結局、本件各取引の過払金の取得について、被告は、平成18年判決の言渡し日以前から民法704条の悪意の受益者に当たるというべきである。
 なお、悪意の受益者に対する不当利得返還請求権については、その発生時点から法定利息が発生すると解されるところ、弁論の全趣旨によれば、原告と被告との間で締結された金銭消費貸借取引契約は、過払金が発生した当時他の借入金債務が存在しなければ過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものであったことが認められるが、その場合であっても、貸主が悪意の受益者であるときは、貸主は、民法704条前段の規定に基づき、過払金発生の時から同条前段所定の利息を支払わなければならい(最高裁判所平成21年(受)第1192号同年9月4日判決・裁判所ホームページ参照)。
  したがって、被告の不当利得返還債務は、被告の受益のとき、つまり、過払金の発生のときから履行遅滞に陥り、そのときから過払金に対する利息が発生すると解される。
 そうすると、上記判示に従って、本件取引について制限超過部分の元本充当計算をすれば、その結果、別紙計算書のとおり、最終弁済日である平成17年4月11日に過払金37万0269円及び過払金に対する利息299円が発生している。
 よって、原告の請求は理由がある。

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