武富士に対する過払い訴訟 判決文紹介 「分断」を否定
2010 年 8 月 4 日 水曜日 投稿者:mituoka静岡地裁における武富士相手の過払い金返還請求訴訟の判決文を以下に紹介します。1年9カ月の空白期間がありましたが(第1と第2取引の間)、こちらの主張通り、「一連計算」が認められました。第1回口頭弁論は本年6月28日、第2回は7月12日でした。なお、原告・被告の住所等、一部記載を省略しております。
平成22年8月2日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成22年(ワ)第676号 不当利得請求事件
口頭弁論終結日 平成22年7月12日
判 決
原告 〇△×
被告 ㈱武富士
主 文
1 被告は、原告に対し、357万1743円及び内300万7043円に対する平成22
年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1)当事者
被告は貸金業者であり、原告は被告との間で金銭消費貸借取引(以下「本件取引」という。)をしていた者である。
(2)本件取引の概要
ア 取引開始日 平成2年7月5日
イ 取引終了日 平成22年1月29日
ウ 取引の経過 別紙計算書のとおり
(3)引き直し計算及び不当利得
本件取引は一連の計算であり、これにつき、利息制限法所定の法定利息を適用して計算すると、別紙計算書のとおり本件取引終了時において過払金元金が300万7043円となり、被告は、上記金額を法律上の原因なく取得している。
(4)悪意の受益者
被告は貸金業者であり、本件取引につき貸金業法43条1項のみなし弁済の立証主張をしていないことからすれば、利息制限法を超過する利息を収受することにつき悪意であったといえるから、前記過払金が発生した段階でそれに対する利息が発生し、その利率は年5%である。
(5)まとめ
よって、原告は被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、過払金元金及び上記元金に対する平成22年1月30日から支払済みまでの利息の支払を求める。
2 請求原因に対する認否等
(1)請求原因(1)は認める。
(2)請求原因(2)は認めるが、後記のとおり一連であるとする点は争う。
(3)請求原因(3)は、本件取引が一連のものであるとする点につき、否認ないし争う。本件取引は、以下のとおり、第1取引と第2取引並びに第3取引に分けられる。
(第1取引)平成2年7月5日~平成4年1月27日
(第2取引)平成5年10月27日~平成13年1月5日
(第3取引)平成13年4月11日~平成22年1月29日
(4)請求原因(4)は否認ないし争う。
被告が貸金業法43条のみなし弁済の適用があるとの認識を有するに至ったことにつき、少なくとも平成18年1月13日以前の支払に関しては、やむを得なかったといえる「特段の事情」がある。
(5)請求原因(5)は争う。
3 抗弁(消滅時効)
(1)第1取引終了時から10年後の平成14年1月27日が経過した。
(2)被告は、平成22年6月28日の本件口頭弁論期日において、上記消滅時効を援用するとの意思表示をした。
4 抗弁に対する認否
被告の消滅時効の抗弁は、本件取引が3つに分かれるという前提であるところ、この前提は成立しない。よって否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
【請求原因に対する判断】
1 請求原因(1)は、当事者間に争いがない。
2 請求原因(2)は、本件取引の経過それ自体は当事者間に争いがない。
3 請求原因(3)について判断する。
同一の貸主と借主との間で継続的に貸し付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが、過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間には他の債務が存在せず、その後に、両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には、第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り、第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は、第2基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である。そして、第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付毛までの期間、第1の基本契約についての契約書の返還の有無、借入等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無、第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況、第2の基本契約が締結されるに至る経緯、第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して、第1の取引に基づく債務が完済されてもこれが終了せず、第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した取引であると評価することができる場合には、上記合意が存在するものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、第1取引の最終弁済が18万8929円、第2取引の最終弁済が75万1237円と多額の返済であること、第1取引と第2取引の間は約1年9か月、第2取引と第3取引の間は約3カ月であること、第1取引の期間が約1年6か月であること、第2取引の期間が約7年2カ月であること、第3取引の期間が約9年であること、各取引の間に基本契約の解約やカードの失効手続をしていないと認められることを考慮すると、事実上1個の連続した取引であると評価できる。
よって、請求原因(3)については、利息制限法に基づく引き直し計算に当たっては一連のものと認められるから、請求原因(3)は認められる。
4 請求原因(4)について
被告が利息制限法所定の制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には、被告は、同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者、すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
ただし、上記利息制限法の制限を超過する約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約にもとで制限超過部分を支払った場合は、貸金業法43条1項にいう「任意に支払った」ものということはできないとした最高裁43条1項にいう「任意に支払った」ものということはできないとして最高裁平成18年1月13日判決(以下「平成18年判決」という。)の言渡以前にされた上記期限の利益喪失特約下の支払については、これを受領したことのみを理由として被告を悪意の受益者とすることはできないというべきである。
そうしてみると、平成18年判決以前の本件取引については、上記「任意に支払った」という要件以外の、他の貸金業法43条1項の要件を充足するかを検討する必要があると解するところ、被告はこの点について、本件取引に関する具体的な主張立証をしていないこと(単に、その当時の一般的な業務態勢として同項の他の要件を充足する行為をしていたと主張するのみでは不十分である。)、ほかに同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があると認めるに足りる事情は認められないことからすれば、平成18年判決以前の本件取引についても、被告は民法704条の「悪意の受益者」となる。
そして、民法704条前段所定の利息は、過払金発生時から発生すると解することが相当である。
5 請求原因に関するまとめ
よって、請求原因はいずれも認められる。
【抗弁に対する判断】
前記のとおり、本件取引は一連のものと認められるから、被告の消滅時効の主張は前提を欠き、認められるに足りない。
第4 結論
以上から、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法61条を、仮執行の宣言につき同法259条1項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
静岡地方裁判所民事第2部
~以下略~