武富士の「取引の分断」主張に対する判決

2010 年 8 月 3 日 火曜日 投稿者:mituoka

〈取引の概要〉
 原告Aさんは、平成2年6月、被告・武富士と金銭消費貸借契約を締結し、15万円を借入れた。その後、借りたり返したりが続くも、平成7年12月18日に一旦完済。原告の記憶によれば、その際、カード返却や基本契約の解約等の事実はなかった。
 その約2ヶ月後の翌年2月に、カードを使い17万円を借入れ、再び取引が始まった。平成22年1月5日の最終取引(返済)時における約定の債務残高は約90万円だった。

〈訴訟の経緯〉
1.引き直し計算すると、過払い状態であることがわかり、Aさんは静岡地裁へ過払い金返還請求を提訴した。
2.武富士からは、みなし弁済、取引の分断、第一取引の過払い金の時効消滅、悪意の否定などの反論がなされた。
3.数か月に渡る口頭弁論を経て、今年7月26日、原告側の全面勝訴判決(283万0334円を支払え)が言渡された

 以下、「取引の分断」と「悪意の受益者」に関する同判決理由を一部抜粋する

〈判決から抜粋〉
取引の分断について判断
 同一の貸主と借主との間で継続的に貸し付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当された時点においては両者の間には他の債務が存在せず、その後に、両者の間で改めて金銭消費貸借契約に係る基本契約が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には、第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り、第1の基本契約に係る過払金は、第2基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である。そして、第1の基本契約に基づく貸付及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付迄の期間、第1の基本契約についての契約書の返還の有無、借入等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無、第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触状況、第2の基本契約が締結されるに至る経緯、第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して、第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず、第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には、上記合意が存在するものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、第1取引の最終弁済が50万4939円と多額ではあるものの、第1取引と第2取引の間は約2か月であること、使用したカードは同一カードであること、第1取引と第2取引に契約条件の違いは見受けられないことが認められる。
 よって、請求原因(3)については、本件取引は基本契約は複数ではあるものの、利息制限法に基づく引き直し計算にあたっては一連のものと認められるから、請求原因(3)は認められる。

悪意の受益者について
 被告が利息制限法所定の制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には、被告は、同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者、すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
 ただし、上記利息制限法の制限を超過する約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約にもとで制限超過部分を支払った場合は、貸金業法43条1項にいう「任意に支払った」ものということはできないとした最高裁43条1項にいう「任意に支払った」ものということはできないとして最高裁平成18年1月13日判決(以下「平成18年判決」という。)の言渡以前にされた上記期限の利益喪失特約下の支払については、これを受領したことのみを理由として被告を悪意の受益者とすることはできないというべきである。
 そうしてみると、平成18年判決以前の本件取引については、上記「任意に支払った」という要件以外の、他の貸金業法43条1項の要件を充足するかを検討する必要があると解するところ、被告はこの点について、本件取引に関する具体的な主張立証をしていないこと(単に、その当時の一般的な業務態勢として同項の他の要件を充足する行為をしていたと主張するのみでは不十分である。)、ほかに同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があると認めるに足りる事情は認められないことからすれば、平成18年判決以前の本件取引についても、被告は民法704条の「悪意の受益者」となる。
 そして、民法704条前段所定の利息は、過払金発生時から発生すると解することが相当である。

(私の感想)
 この判決は、全面勝訴ではあるが、判決理由についてはいまひとつ納得いかない点がある。
 原告は準備書面において、「本件取引については、途中、基本契約が解約された事実はなく、平成8年2月23日の貸付は単なる貸し増しにすぎないので、一連の取引であることは疑いの余地がない」旨の主張をした。しかし判決は、「基本契約は2つ存在した」と判断している。本件においては、それを証明する契約書等が武富士から証拠として提出されたわけではないのだから、当方の主張した理由を取り上げて欲しかった。あるいは、少なくとも「第2の契約は変更契約に過ぎなかった」と言ってもらいたかった。なぜなら、もしも、第1取引の期間がもっと短く、第2取引開始までの期間がもっと長かったら、「分断」と判断されてしまう余地があったことになる。また、基本契約の解約がなかったことの立証責任を原告に負わせることにもなりかねない。「なかった」という消極的な証明は困難を極める。 
 武富士の主張した「みなし弁済」について、本判決は一切触れていない。論ずるに足らず、ということだろう。この点についてはまったく文句なしだ。

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