多重債務の防止を柱とした改正貸金業法が18日、完全施行される。上限金利の引き下げや、個人の借入総額を年収の3分の1までとする総量規制が導入される。「返済が楽になり、借りすぎも抑制できる」との期待がある一方、「借りられなくなる人が増え、混乱するのでは」と不安の声も上がる。埼玉弁護士会、司法書士会、県などで組織する県多重債務対策協議会は「一人で悩まず、改正法を正しく理解して借金問題を解決してほしい」と呼び掛け、無料相談会を18、26日に実施する。
「気づいた時には月々の返済額は30万円にまで膨れあがり、自殺も考えた」県内の50歳代の女性が消費者金融から50万円を借りたのは約20年前。夫が交通事故を起こし、現金が必要になった。利息は出資法の上限金利の年29・2%。毎月約2万円を返済し続けたが、残高は減らなかった。
その後、夫の会社が倒産して収入が激減。生活費と返済金を工面するため、自宅を担保に、消費者金融を借り歩いたところ、借金は膨張の一途をたどった。
昨年8月、思いきって相談に訪れた市の相談窓口で司法書士を紹介された。利息制限法で定められた金利で利息を計算し直したところ、700万円以上の過払いが判明。過払い金の返還により、自宅の担保を解除、滞納していた固定資産税もほぼ返済できた。「相談に行っていなかったら今頃どうなっていたか……」
女性を苦しめた高い金利。出資法の上限金利と、利息制限法の上限金利との差は「グレーゾーン金利」と呼ばれていた。改正貸金業法ではこのグレーゾーン金利が撤廃され、出資法の上限金利は20%に引き下げられる。多重債務問題に取り組む弁護士らは、借入総額を年収の3分の1までとする総量規制の実施と合わせ、「返済能力を超えた借金や多重債務に歯止めがかかる」と改正法を評価する。
ただ、日本貸金業協会の調査によると、消費者金融の利用者の約半数は総量規制に引っかかり、新規借り入れができなくなるとみられている。「貸し出しの審査が厳しくなり、借りられない人が増えるのでは」といった指摘は、国会や金融庁の検討会議などで出ていた。県警も「正規業者から借りられない人が、違法なヤミ金融に流れる恐れがある」と警戒を強め、今月10日、ヤミ金融取り締まり強化を全39署に通達した。
これに対し、多重債務被害者の会「夜明けの会」で事務局長を務める井口鈴子司法書士は「ヤミ金に手を出したら最後。借金に困ったらできるだけ速やかに行政窓口や専門家に相談してほしい」と強調する。
各地の社会福祉協議会では、一時的に家計が窮迫した人を対象に、緊急小口資金(10万円以内、無利子)の貸し付け制度もある。そこで、夜明けの会は、勤務先の会社が倒産したり、病気で離職して求職活動がままならなくなったりして借金に頼らざるを得なくなった債務者に対し、「すぐに生活保護を申請して」「緊急小口資金を借りましょう」などと助言している。
同会やヤミ金被害対策埼玉弁護団の弁護士らは「借りられない人をヤミ金に走らせないためにも、相談窓口の強化と同時に、緊急小口資金などの貸し付けの充実や周知がカギとなる」と指摘している。
改正法の完全施行に合わせて企画された県多重債務対策協の面談・電話による無料相談会は、18日がさいたま市浦和区のときわ会館(午後1時~9時、相談ダイヤル(電)048・822・5055)、26日が同区の埼玉弁護士会館(午前10時~午後4時、(電)048・864・0630)で。予約不要。県(県民コールセンター(電)048・728・9601)や各自治体、弁護士会や司法書士会などには、常設の相談窓口もある。
■消費者金融からの借り入れ 年収の3分の1までに
改正貸金業法は2006年12月に成立。ヤミ金融業者への罰則強化や、執拗(しつよう)な取り立てなどの行為規制強化、貸金業者が借り手の総借入残高を把握するための指定信用情報機関制度の導入など、段階的に施行されてきた。
今月18日の完全施行後は、個人の借入総額を年収の3分の1までとする総量規制により、消費者金融などからの借り入れの際には基本的に、年収を証明する書類の提示や、収入のない専業主婦には配偶者の同意が必要になる。銀行からの借り入れや法人名義の借り入れ、住宅ローンなど一部については規制されない。個人事業主も、事業計画書などの提出により、返済能力が認められれば、年収の3分の1超の借り入れが可能となる。
(2010年6月15日 読売新聞)