コラム
スポーツの名勝負 ~大学時代の思い出~
2008/08/11
スポーツ史において「名勝負」と言われるものはいくつかあります。北京オリンピックでの内柴・北島両選手の金メダルは、新たな名勝負として語り継がれることでしょう。
今日はみなさん誰も知らない名勝負をご紹介します。それは、20年近く前に神奈川県秦野市で行われた東都大学野球リーグの公式戦、上智大学と武蔵工業大学の試合でのドラマです。
学生時代、私は上智大学硬式野球部の一員でした。同学年にSくんという二塁手がいました。俊足好打の選手で人望も厚く、将来のキャプテン候補でもありました。しかし、彼は3年の秋にある事情のため野球部を休部。1年間のブランクを経て、4年の最後のシーズン前にようやく復帰してきましたが夏合宿の練習中に足首を骨折。リーグ戦開幕まであと僅かという時期でしたので、彼はグラウンドに二度と立つことはないと思われました。なんて運のない男なんだ、私はガッカリしていました。しかし、驚異的な回復を見せ、リーグ戦の最終試合、本当に最後の最後、9回裏の守りに二塁手として交代出場できました。
最後にSに捕球機会を、と私は祈りましたが、セカンドへ球は飛ばず相手の攻撃も2アウト。4年に進学する際に大学を中退し、野球部からも去っていた私はネット裏から叫びました。「T、セカンドに打たせろ!セカンドへゴロを打たせろ!」マウンドに立っていたのは2学年後輩のTくん。私と目が合うと、セカンドSを指差し「Sさん、行きますよ」と声をかけました。そこから4球連続でカーブを左バッターの内角低めに投げ続けました。低めの球を引っ掛けさせてセカンドゴロを打たそうという算段です。カウントは2-2。果たして、本当にセカンドにゴロが飛ぶのか、そんなに上手くいくものなのか、私は不安でした。しかし、なんとかSに最後のボールを取らせてあげたい。
「Sさん、行きますよ」Tくんは5球目を投げる前にもう一度Sに声をかけました。Tは剛球投手。最後のバッターはストレートで三振を取りたかったに違いありません。しかし、遂に5球連続のカーブはバッターがひっかけて見事にセカンドへ。Sが華麗にさばいて試合終了。泣けてきました。あんなに感動したスポーツの名場面はありません。Sくん、Tくん、元気にしているのでしょうか。